僕らは運命の意味を探していた。
「……久々に見るな、これ。」

 一好はそうさりげなく言った。俺はこの言葉が少し引っかかった。

「おい、久々ってなんだよ。お前見たことあったのか?」

「まあな、こいつと同じ学校だったし。いじめの現場だって、何度見て来たか。」

 触れてはいけない、何か嫌な匂いがした。一好の日記を見る目線が、どこか悲壮感の漂うものに見えた。

 いじめという、人を恐怖のどん底に落とす行動の一部始終が、この中に書かれているとなると、相当な覚悟が必要である。俺は素直にそう思った。

「開くぞ……。」

 俺は恐る恐る表紙をめくった。そして衝撃的な光景を目にする。

「これは酷い……。」

 黒のボールペンで、何ページにも渡り、クラスメイトや先生への罵倒が殴り書きされていた。

 もはや殴り書きというのもおこがましいレベルの、乱雑な文字が空白を許すまじとして、埋め尽くしていた。

 その光景に一好を除いた三人は言葉を失い、予想以上の光景に目を瞑ってしまう程だった。

「あいつが苦しんだ跡だよ……。所々滲んでる箇所があるでしょ、あいつの涙が零れた後だ。」

「アツ……。中学生の時こんな苦しみを……。」

 心が痛かった。

 俺の心は、これ以上負荷をかけると危ない、そんなレベルまで初めの数ページで押し上げられてしまった。

 俺はアツがこれだけ病んでいたとは思ってもみなかった。

 アツはいつも元気で快活な笑顔を振りまいていた。

 そんなアツがこんな拷問……。

 あんまり過ぎるだろ…………。

「敦君の事? それって。」

「ああ、そうだけど。――今更なんだよ。」

「これ書いたの、敦君じゃないぞ。」

「えっ……?」

「確かに、敦君もいじめられてたけど、あいつは普通に友達もいたし。第一、敦君は自殺なんてしてないぞ。」

 一好は初耳の情報を、間髪入れずに入れて来た。

 俺らが整理する時間を与えない程に、新情報のオンパレードだった。

「一回整理させてくれよ。これを書いたのは、アツじゃねえのか?」

「ああ。そうだよ。」

「で、書いた本人が、何だって?」

「…………自殺した。」

 一好は抵抗なく、その言葉を発した。俺は、平然と言う一好の人間性を疑ってしまった。

「アツじゃなかったら、誰が書いたんだよ。」

「一岡龍次。敦君と共に三年間、学年規模のいじめに遭った、最大の被害者。」

 すると一好は、突然日記をめくると、あるページの所で手を止めた。

「ここから、一岡と敦君のいじめの記録が始まるんだ。ただ、簡潔過ぎるから俺が補足を入れてくな。」

 来海が順々に日記を読み上げていく。一好の言った通り、日記の内容だけではやはり内容が薄かった。

 三分の一程度の紹介が終わった辺り、この時点で悲惨な現場だった事は容易にくみ取れた。

 殴り蹴り、暴言、無視、雑用の押し付け、冤罪、白けた目線。

 何より。

「加担していた大半も間違いにはとっくに気付いていた。でも一岡達の肩を持ったら、今度は俺らが狙われるかもしれない。そんな恐怖心に負けて、俺らも続けるしかなかったんだ。」

 一好の顔に悔しさが滲み出ていた。俺らには分からない、何か後悔があったのだろう。

 
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