僕らは運命の意味を探していた。
 そして今度は紗南が動き出した。無言で僕と司令官の横を通ると、一岡の前に立ち右手で頬を叩いた。

 パチン。

 乾いた音が校舎に響く。それはまるで、少し前の僕を見ているようだった。

「真道の気も知らないで、何、寝言吠えてんだよ‼ あいつはな、精神が病むまで後悔して、どうしたらよかったかをずっと考えてたよ。そんな事も知らないお前ごときが、敦君の親友だって? 笑わせないで‼ あんたなんか、敦君の名を借りたただの偽善者よ。」

 一岡は、ビンタの勢いで尻もちをついた。

 そんな彼に僕は、紗南に追随して意見を述べられる気分に、なってはいなかった。

 僕はあの件に関して、僕に非があったと認めているし、原因の一端を担っているのは分かっていた。

 だから僕はあの件に対して、とやかく言うつもりはなかった。

「偽善者? 私は、偽善者だったのか? 敦の事が大好きで、ずっと考えてきて、それが偽善だったのか? 分からない、もう分らないよ…………。」

 僕は、頭を抱えたまま倒れこんだ一岡を見て、少し可哀そうに思っていた。

 一岡のアツに対する気持ちは本物で、不器用だったから判断を誤った。

 多分、不器用なせいで人から距離を置かれ、疎まれてきた。

 もしかしたら一岡は、運命の残酷さ、不条理さの被害者の典型とも言える人なのかもしれない。僕は彼に多少の同情を抱いた。

 そのまま沈黙の時間が続いて、陽も完全に落ちてしまった。

 背後から、簡易的なライトの明が付くだけで、視界は良好とは言い難いものだった。

 「真道君…………。」

「……どうした?」

「一つ聞き忘れていたことがあった。それを聞けたら今後について、話したいと思うんだ。」

 一岡は、いつもの話し方で僕にそう告げた。

「何で、ダムが建設されるようになったか、分かるかな?」

「ああ。紗南と司令官の親戚が賄賂を貰って、ダム建設を断行したんだ。そしてその社長が、二人の親に利己的な指示を出した。」

 村の議会で上層部に当たる役職を担っていた二人は、村長や村議会議長と密な関係性だった。

 だから、そこを狙われて、ダム建設の後押しを図った。

 ある時に、一岡のお父さんを邪魔に感じた社長は、痛い目を見させるように命令した。

 当然、二人は断ったが、社長が賄賂の一件をダシにして、やらざるを得ない状況に追い込んだ。

 もちろんそれでも断る選択肢もあった。

 
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