僕らは運命の意味を探していた。
「ここが一岡達のふるさとで、悲劇のあとだ。」


 十六夜ダム。それは、十六夜村よりつけられたダムの名前だった。

 ネーミングセンス的にはいまいちだが、ここの村を忘れないという強い気持ちが感じられて、俺は少し気持ちが引き締まった。

 見学費を院長先生に負担してもらい、俺らは見学スペースへと移動した。

「昔はここが村だったなんてな……。」

 変わり果てた姿を見て俺は、そこが緑豊かだったあの村だとは思えなかった。

 ここに入る前に、建物の中には十六夜村博物館という、記録を展示する施設があった。

 特産物の記録、住民たちの写真、実際に村に存在した遺品、そしてダム完成までの『公の』道のり。それらが数多く展示されていた。

 どうして『公の』なのか。それは表と裏の理由が全く異なっていたからだ。

 住民がダム建設に賛同し、迅速に退去を完成させ、着工に至った。これが『公の』理由だった。

 しかしそんな薄情な村がここにあった訳じゃない。もっと温かみに溢れた、伝統ある村だったはずだ。

 十六夜村には皆の思い出が詰まっていた。

 それをコンクリートの壁で覆って、水没させて、何百年かけて作り上げた村の伝統を、容易に破壊したのだ。

「恐ろしいだろ。――金の力って。」

「ああ。そうだな……。」

 俺は思った以上衝撃で、それ以上の言葉を紡げなかった。

 長い年月をかけて作り上げたものが、一瞬にして無に帰った。

 僕は、そんな悲しい背景を持つ人工の建造物を眺めているだけで、心が痛くなっていた。

 まだ、水の底に人々の想いが残っているように感じて、十年という月日が経った今でも、その無念を汲み取ることが出来るような気がした。

「見せたかったのって、ここじゃねえんだろ。」

「ああ。でも、もう少し待ってくれ。この景色を目に焼き付けたい。」

「ただのコンクリートの中に、水が溜まってるだけじゃねえか?」

「そうだな……。でも、ここには一岡の故郷があった。俺自身、ここに来るのは初めてだけど。しっかり目に焼き付けて、後で行く墓参りの時に報告できるといいなって思うから。」

 一好の目は遠く、ダムとはかけ離れた地平線の彼方を、見ていたような気がした。

 なぜ一好の目線がそこを向いているのか、そんな事を俺が知るはずがなかった。

 もしかしたら一好には、彼方に二人の旧友の姿が見えていて、それを見ながら感傷に浸っているのかもしれない。

 それが幸福感に溢れて、終始笑顔でふざけ合っている光景だったとしたら、旧友だった彼の涙腺はもう耐えられないだろう。

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