僕らは運命の意味を探していた。
 炎天下の中、汗をかきながら一段ずつ昇っていく。思った以上に段差が大きく中々前に進まない。

 そしてようやく頂上に着いた時、目下に広がる景色が俺の目に飛び込んできた。

「ダムしか見えないじゃん……。来た意味ってなに……。」

 来海は消えそうな声でそう言った。

「ここも、元は十六夜村の一部だった。ダムにはここまでの高所が必要なかったから、この場所だけが残ったんだ。」

 一好は、どこかこの場所を懐かしみながら言った。

 まるで十六夜村の住人だったかのような言い方が、俺は少しだけ気になった。

 しかし、それが気のせいなのは、俺がよく分かっていた。

「なんで、俺らをここに?」

 俺は簡潔に聞いた。

「さっきダムから見た景色を覚えているか?」

「ああ。覚えてるぞ。ダムの内部しか見えなくてよ、つまらなかったな。でも、それがどうしたんだ?」

 一好は高台の一番先にある柵の前に立つと、そこから広がる雄大な景色に目をやった。

「ここからは、ダムの外側の景色も同時に見ることが出来るんだ。俺はこの景色を見て、ダムが無かったらなって、ずっと思ってたんだよ。」

 一好は、落ち着いた声色で言った。

 この大規模な人工物の存在が、美しい自然達の風景を破壊しているのは明白だった。

 いくら国が豊かになるとはいえ、美しい自然環境の破滅は、看過できない事柄だと、俺は思った。

「一岡やこの村の事を、日記とか過去の出来事だけ知って、終わりにしないで欲しかったんだ。」

 聞くところによると、毎年のように一好は、一人で足を運び、この場所で何時間も物思いに耽っているらしい。

 そのためか、彼の言葉にどこか説得力があった。

 ダム見学はしてなかったらしいが、よくこの場所を訪れては目下に広がる大自然の中に、十六夜村があったら一体どんな風景だっただろう、とよく想像するそうだ。

「この村を知って、一度は見て欲しい景色だったんだよ。だから予定を空けてもらったんだ。」

 一好の目的は至って単純で、そこに亡きクラスメイトへの愛を感じた。

 あの当時、一好は、自分が被害者になる事を恐れ、やる気のない加害者を演じた。

 人を傷つける事が嫌いで、戯れるのが大好きな少年は、自分からいじめに加担する事が、ほとんど無かったという。

 彼にとって、この時期は黒歴史として彼の心に深く刻まれている。だから、あまり多くを語ろうとはしなかった。

 それでも彼の中に、後悔という感情が、色濃く存在しているのは、火を見るよりも明らかだった。

 決して表に出そうとはしないけれど、彼の行動の中に、時々その感情が、垣間見えることがあった。

 その一つが、ここを訪れてあの頃を回想する事だった。

 彼は数年経った今も、消えようのない懺悔の中にいた。
 
 時折、あの頃の記憶がフラッシュバックして、胸が裂けるほど苦しくなる時間帯が来るそうだ。

 しかし、いつその苦しみが訪れるかが分からない。寝ている間や、お風呂の中、トイレで用を足す間、いついかなる場合でも油断はできない。

 そのストレスは彼にとって、計り知れない苦痛となっているに違いなかった。

 しかし彼は決して俺らの前で、その事を語らない。恐らく今後も俺らの前で、彼の気持ちが語られることは無いと思う。

 それは彼自信が、黒歴史に対する償いだと考えているからだった。

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