僕らは運命の意味を探していた。
 昼時に差し掛かり、太陽の光も一層強くなっていた。

 それでもその場を離れないのは、俺がここに留まっていたいという、無意識の感情が働いていたからだろう。

 ベンチに接着剤が仕掛けられているのかと疑う程に、僕の腰は上がらなかった。

 ふと、ここが真道の故郷であることを思い出した。

 幼い頃にここで、両親と遊んでいたかもしれない。俺は、真道が友達を連れてきて走り回っていた絵が、頭に浮かんだ。

 だから時々でも、ここの事を思い出して、恋しく思っているのではないだろうか。

 流石にダムになった事は知っていると思うけど、ここの事まではあいつの情報網じゃ分からないだろう。

 真道は深く狭くのタイプだから、あまり友達もいない。

 両親に村の友達がいたとしても、ここに来たという人はなかなかいないと思う。

 自分たちの故郷が影も形も無くなったという事実を、無言で突きつけてくる、この場所に足を運ぶのは、些か抵抗感があるのではないかと、俺は思った。

 それからは再び、何も考えない時間が続いた。

 ある時石造りの階段から足音が聞こえた。

 そしてその音の主は、俺の名前を呼んだ。

「おい、隼人―。熱中症になるぞー。一回屋内に入れよー。」

「分かったー。今行くわー。」

 俺は、室内で涼みたいという感情で一杯だった。

 それでも、石のように固い両足が俺の意思を防いで、そこに留まらせていた。

 しかしそれは責任転嫁だとすぐに分かった。

 なぜなら、単に動きたくなかっただけだったからだ。なかなかお目にかかない景色を目に焼き付けておきたかった。

 俺はようやく重たい腰を上げると、先に帰った一好の後をゆっくりと歩いた。

 俺は目を見開いた。全ての風景に目を通し、自分の記憶に留めておきたかったからである。

 木々に泊まる蝉が、合唱のような鳴き声を披露し、炎天下の下で安らぎともいえるそよ風が吹いていた。

 言わずもがなの大自然の中に、時の流れを感じさせる神社があって、それは廃墟と化していた。

 俺はその風景に、一旦さよならを言って、屋内へと戻った。

 汗の影響からか、クーラーの効いた部屋が寒く感じた。

「びっくりしたぞ。あんだけ長い時間、外にいるなんてよ。」

「そうか? まあでも、お前の気持ちが分かったぞ。」

「だろ。あの風景ってずっと見てられるんだ。」

 一好は得意げにそう言った。

 それから俺は、複雑に絡み合った気持ちを胸いっぱいに抱きながら、奏ちゃんと一好の会話を傍観した。

 あの時、高さのある展望台から見下ろす景色に、俺は様々な感情が揺り動かされているような感じがしていた。

 やはり金目的で作られた建物で、感情が揺れ動くはずがなかった。

 風景の邪魔でしかないし、いくら公共事業で人のためとはいえ、どうにも俺は好きになれそうになかった。

 
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