僕らは運命の意味を探していた。
そう思い立った僕は、おもむろに立ち上がると、教室を後にして階段を上り屋上に向かった。
「君がここに来るなんて。何かあったのかな?」
「単純に暇だから来ただけ。他に理由なんて無いよ。」
一岡は、平均的な男子高校生の、胸の高さほどのフェンスを背もたれにして、その下に座っていた。
「創造主なら、自分の部屋とか作らなかったのか?」
「いくら創造主でも、そこまでは出来ないよ。これが精一杯さ。」
一岡はそう言った。
僕は創造主という権限を、もしかしたら誤解していたのかもしれない。もっと自分勝手に、世界を作り上げられるとばかり思っていた。
しかし現実はもっと厳しかったらしい。ここにまで現実の世知辛さが及んでいるとは露にも思わなかった。
「それにしても、この世界って、ほんとよく出来てるよな。」
「まあね。私の大好きな故郷をイメージして作ったから、当然だよ。」
一岡はそう言って、得意げに笑った。
しかし、僕は一岡の考えに賛成できなかった。
「なんでそんな大事な場所を、こんな事に使ったんだよ。」
僕は素直に真意を知りたかった。
一岡の大切な故郷、しかもこれだけの大自然を、一岡はデスゲームの開催場所に選んだ。
普通なら、そんな不名誉のイベントの会場には選ばないはずだ。
「意味か……。難易度を下げるためかな。」
「難易度?」
「流石に、この風景を見て思い出さない同郷の人間は、いないと思ったんだよ。それであのダムの事を思い出したら、紗南と俊也辺りは分かるだろうってね。私の優しさだよ。」
笑顔で一岡はそう言い放ったが、僕には仮面を被った悪魔にしか見えなかった。
「ほんとか? ほんとにそうだと言ってるのか?」
「というと?」
「この世界では絶望を持った人間が死んでいく。そういうルールがあったはずだ。確かに難易度を下げたという意図もあったはず。でもそれは、脱出不可能という絶望に叩き落すため、だったんじゃないのか?」
恐らく僕は、険しい表情をしていたと思う。怒りがお腹の底から湧き上がってくるような感覚が、僕にはあった。
幾ら難易度を下げたとはいえ、やはりメモや手掛かりを集めるには、些か要す時間が多すぎやしないだろうか。
まず風景を思い出す前に、記憶を奪われていた。
多分そこでも、絶望に突き落とすための構想があったのだろう。俺はそう思った。
しかも、『ギリギリで何とか間に合った、さあ現実世界へ帰らせてください。』
『いいや不可能です。』
それがこの世界のシナリオの大枠だ。
希望をすぐさま絶望に変えられて、気力の無い人々は抗いもせずに黒い渦に飲み込まれ、即死。
そんな未来を一岡は描いていたのではないだろうか。
「でも、君たちも絶望を味わったはずだ。でも黒い渦は出現しなかったよね。それはどう説明する?」
「単純に、一岡が自分に非があった事を認めたんじゃないの?」
「っ……‼」
図星のようだ。あの憎たらしい物を見るような目はまさしく、正解の証だった。
「おかしいと思ってたんだ。色んな事が簡単すぎやしないかって。」
僕は一岡にそう言ったが、それでも、丸の付いた日付に間に合うかどうかは微妙だった。
恐らく、そこは計算して作り出したのだろう。俺はそう踏んでいた。
「携帯が置かれていたり、都合よく夜の活動を始めた時に紙が見つかったり、他諸々。それら全部一岡がやった事なのかどうかは分からないけど、少し出来過ぎてるなって思ったよ。」
僕は例を交えて、自分の意見を全て伝えた。
そう言えばと思いながら、携帯電話の話をしたが、あれは遠隔地との連絡用で、カメラすら使えない。いわばガラクタ同然だった。
僕がひとしきり話し終えると、一岡は一歩前に出て言った。
「やっぱ、早い段階で君を消しておくべきだったな・・・・・・。私の完敗だよ。そこまで見通せられたら、もう何も言うことは無い。」
一岡は、両手を挙げながら、降参したというジェスチャーに似た恰好を取っていた。
「僕に一岡を攻める資格があるのかどうかは分からないけど、お前が思ってる以上に、皆辛い想いをしてるんだからな。自分だけが被害者だと思うなよ。」
僕がそう言うと、一岡はなぜか鼻で笑った。
「君がここに来るなんて。何かあったのかな?」
「単純に暇だから来ただけ。他に理由なんて無いよ。」
一岡は、平均的な男子高校生の、胸の高さほどのフェンスを背もたれにして、その下に座っていた。
「創造主なら、自分の部屋とか作らなかったのか?」
「いくら創造主でも、そこまでは出来ないよ。これが精一杯さ。」
一岡はそう言った。
僕は創造主という権限を、もしかしたら誤解していたのかもしれない。もっと自分勝手に、世界を作り上げられるとばかり思っていた。
しかし現実はもっと厳しかったらしい。ここにまで現実の世知辛さが及んでいるとは露にも思わなかった。
「それにしても、この世界って、ほんとよく出来てるよな。」
「まあね。私の大好きな故郷をイメージして作ったから、当然だよ。」
一岡はそう言って、得意げに笑った。
しかし、僕は一岡の考えに賛成できなかった。
「なんでそんな大事な場所を、こんな事に使ったんだよ。」
僕は素直に真意を知りたかった。
一岡の大切な故郷、しかもこれだけの大自然を、一岡はデスゲームの開催場所に選んだ。
普通なら、そんな不名誉のイベントの会場には選ばないはずだ。
「意味か……。難易度を下げるためかな。」
「難易度?」
「流石に、この風景を見て思い出さない同郷の人間は、いないと思ったんだよ。それであのダムの事を思い出したら、紗南と俊也辺りは分かるだろうってね。私の優しさだよ。」
笑顔で一岡はそう言い放ったが、僕には仮面を被った悪魔にしか見えなかった。
「ほんとか? ほんとにそうだと言ってるのか?」
「というと?」
「この世界では絶望を持った人間が死んでいく。そういうルールがあったはずだ。確かに難易度を下げたという意図もあったはず。でもそれは、脱出不可能という絶望に叩き落すため、だったんじゃないのか?」
恐らく僕は、険しい表情をしていたと思う。怒りがお腹の底から湧き上がってくるような感覚が、僕にはあった。
幾ら難易度を下げたとはいえ、やはりメモや手掛かりを集めるには、些か要す時間が多すぎやしないだろうか。
まず風景を思い出す前に、記憶を奪われていた。
多分そこでも、絶望に突き落とすための構想があったのだろう。俺はそう思った。
しかも、『ギリギリで何とか間に合った、さあ現実世界へ帰らせてください。』
『いいや不可能です。』
それがこの世界のシナリオの大枠だ。
希望をすぐさま絶望に変えられて、気力の無い人々は抗いもせずに黒い渦に飲み込まれ、即死。
そんな未来を一岡は描いていたのではないだろうか。
「でも、君たちも絶望を味わったはずだ。でも黒い渦は出現しなかったよね。それはどう説明する?」
「単純に、一岡が自分に非があった事を認めたんじゃないの?」
「っ……‼」
図星のようだ。あの憎たらしい物を見るような目はまさしく、正解の証だった。
「おかしいと思ってたんだ。色んな事が簡単すぎやしないかって。」
僕は一岡にそう言ったが、それでも、丸の付いた日付に間に合うかどうかは微妙だった。
恐らく、そこは計算して作り出したのだろう。俺はそう踏んでいた。
「携帯が置かれていたり、都合よく夜の活動を始めた時に紙が見つかったり、他諸々。それら全部一岡がやった事なのかどうかは分からないけど、少し出来過ぎてるなって思ったよ。」
僕は例を交えて、自分の意見を全て伝えた。
そう言えばと思いながら、携帯電話の話をしたが、あれは遠隔地との連絡用で、カメラすら使えない。いわばガラクタ同然だった。
僕がひとしきり話し終えると、一岡は一歩前に出て言った。
「やっぱ、早い段階で君を消しておくべきだったな・・・・・・。私の完敗だよ。そこまで見通せられたら、もう何も言うことは無い。」
一岡は、両手を挙げながら、降参したというジェスチャーに似た恰好を取っていた。
「僕に一岡を攻める資格があるのかどうかは分からないけど、お前が思ってる以上に、皆辛い想いをしてるんだからな。自分だけが被害者だと思うなよ。」
僕がそう言うと、一岡はなぜか鼻で笑った。