僕らは運命の意味を探していた。
 ここまで、人に対して熱くなったのはいつぶりなのか。思い出すだけで、数日はかかるような気がした。

「……分からないんだ。……私にはどうなのか分からないんだよ。」

 一岡は頭を抱えて、俯きながら絶望感を醸し出ていた。僕は一岡に対して、声色を穏やかに言った。

「傷つける気は無くても、人を傷つけてしまっていた。そんなとこか?」

 感情に任せて言い過ぎてしまったかもしれない。それは僕の未熟な部分だったと、反省するばかりだった。

 僕は少し罪悪感を抱きながら一岡の話を聞いた。

「私には人の気持ちが分からないんだ……。だから、傷つけていないだろうと思って言った言葉が、今みたいに馬鹿にしたって言われるんだよ……。」

 一岡はおでこを地面につけながら、僅かに僕の耳に届くような声で言った。

 僕はこの世界に連れてこられて、絶対に、悪意に満ちた最凶の敵なのだろうと僕は感じていた。

 極悪非道で、傷付けていると自覚した上で、故意に行ったのだと僕は思っていた。

 実際こうして素の一岡と言葉を交わしてみると、人付き合いが苦手で、不器用なただの高校生だった。

 人付き合いが苦手なせいで、対人コミュニケーション能力が著しく低いために、昔から人と会話をしてこず、能力が上昇しないまま、思春期の人間社会に飛び込んでしまった。

 一岡は悪人ではなく、やり方を知らないただのコミュニケーション素人だった。

 学校ではコミュニケーション能力が、ものをいう社会だと僕は思っている。対人関係の能力が低い人は太刀打ちできない。

 もちろん人との話し合いの中で、会話のスキルは身に付く。だからその環境に合った人たちは、コミュニケーション能力は上がっていくだろう。

 しかし、コミュニケーション能力が極端に低い場合、会話すらまともに出来ないから、結果的にスキル向上は見込めない。

 一岡は言わずもがな、能力が極端に低い部類に属していた。

 だからスキルアップもせず、人の気持ちを理解できるまでには至らなかったのだ。

 多分、一岡に関して言えば経験の差だったと思う。

「仕方ないんじゃないか、それはもう。」

 ここまで聞かされたら怒るに怒れなくなっていた。

 コミュニケーションが苦手な人が、この世の中にはごまんといる。

 その人達だって、周りの人から誤解されやすいはずだ。

 だから変な噂が流れても、周りの人は真実だと信じ込んでしまう。

 その人のことを知らないから、表面上の情報からしか判断ができない。

「それは個性だし、僕に責めることは出来ないよ。でも……。」

 これだけはハッキリさせておきたかった。

「やって良い事と悪い事の線引きくらいはできるだろ。」

 少し厳しい言葉に聞こえたかもしれないが、この一件を不器用だから、なんて理由で片付けられてしまってはたまったものじゃない。

「そうだね……。そこ、もう少し考えなきゃいけなかったよね……。」

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