僕らは運命の意味を探していた。
 先生は、時々足の組み方を変えながら俺と会話をしていた。

「でもね・・・・・・隼人君とか一好君とか、敦君の友達から私の知らない情報を聞くと、不安になるんだよ。そう思ってたのは私だけだったのかって。」

 先生からは、明らかな不安感が漏れ出ていた。

 気持ちは分かるし、同じ立場になったとしたら、多少なりとも同じ感情を抱くと思う。

 それでも、アツは先生の事を特別に思っていたのだろう。

「俺にはアツが、先生の事をどう思っていたのかなんて、一切分からねえよ。だって、あいつの口から先生の事、聞いたこと無かったからな。」

 アツは、あまり自分の家族の話をしない人だった。

 だから、家庭で何が起きているのかを知る機会が、俺らには皆無だったのだ。

「でも、月に何度か会う人がいるんだ。って笑顔のアツから言われたよ。嬉しそうな顔で話してたから、よく覚えてる。」

 アツは時々、輝くダイヤモンドのような笑顔を浮かべる時があった。それが、俺らの脳裏に深く刻まれていた。

 あの表情があるか無いかで、その日の雰囲気があからさまに上下する。それほど影響力は大きかった。

「俺らでは、あの笑顔を作り出すことは、出来なかったぞ。でも先生はそれをやってのけたんだ。俺にはそっちの方が、何倍も凄い事だと思うけどな。」

 俺は素直な気持ちを先生に言った。

 人間という生き物は、相手を悲しませるのが容易な生き物だ。

 なぜなら、傷つけてしまえばそんな表情が自然と生まれてくるからである。

 でも幸せな表情はそうもいかない。

 意図して他人が相手に対して、喜ばれるような事を言ったとしても、それが幸せにつながるかどうかは本人次第。

 中にはポジティブな人で、悪口を跳ね返すタイプもいたりするけど、圧倒的に傷つけられやすく、幸せを感じにくいタイプの方が多い気がした。

「そうなのかな? でも、敦君が楽しんでくれてたなら、私はそれでいい。今日、それが分かった良かったよ。」

 今日初めて、先生が笑顔を見せた瞬間だった。

 少し無理やり感はあるが、先生が良かったと思っているのなら、俺はそれでよかった。

 その後俺らは、適当な雑談を交わして俺は病室を後にした。

 最近では涼しい日が続いて、あまり夏感の無い日々を過ごしている。

 そんな中で僕は、ようやく宿題に手を付け始めた。取り組み始めて気付いたのだが、あまりの量に少々お手上げ状態だった。

 最近グループラインでの会話が増えてきた。

 旅行もあってみんなの距離が縮まり、気心の知れた仲になってきているのだと、俺は思った。

 でも、話の中で度々目にするのが、『四人、大丈夫だよね。』という趣旨の発信だった。

 俺らは、いわば傍観者なのだ。

 目の前で苦しんでいる人達に対して、ただ指をくわえてみているだけ。間に入る事は一切できない。

 強制的に部外者として仕立て上げられた俺らは、一種の抗いとして、今回の旅行や犯人探しがあった訳だ。

 何もしないまま、見ているだけの立場でいたくないという、俺らの意思表示だった。

 俺ら四人はその無力感との葛藤の中にいた。

 行動を起こそうとしても、結局は何一つ四人に届くわけじゃない。

 だから何をしても無駄にしかならない、そんな半ば諦めの感情が、俺らの心に流入してくるのだ。

 不安感に苛まれ、いつ絶望感を抱くのかと震えながら生活をし、精神的負担を永続的に受けている。

 この状態がいつまで続くのか全く見当もつかないまま、忙しない日々を過ごしていた。

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