僕らは運命の意味を探していた。
 あきを失い、アツに脱出させてもらって、しかも僕が死に追いやった人に救われて、普段の生活に戻る。

 それの何が楽しくて、現実での生活を望むのか。僕は、そんな願望を持てそうになかった。

「生きる気力も、支えだったあきも失って、もう生きるのが辛いんだよ‼」

 僕は心の底から話していた。

「僕にはもう何もないんだ。だからここで、死なせてくれよ……。」

「それこそ絶対させないよ。というか、何を勘違いしてるのか分からないけど。」

 そしてアツが放った一言は、僕の想像を遥かに超えていくものだった。



 あきは、生きてるからね?



 アツが放った衝撃発言が、僕にとって信じられる内容のはずがなかった。

「えっ……。嘘だよ、僕は目の前であきが呑み込まれていく様を見たんだ‼ そんなの、あり得るはずが……。」

「ここは生と死の境にあるんだ。だから殺すなんて容易いんだよ。」

 アツは『しかし』と繋げて言った。

 当然だが『生と死の境』で生きることもできる。『死が近づいただけの話』だと。

「じゃあ、金持ち息子も生きてるのか?」

 僕はそう言うと、ゲームマスターは首を振って「もう死んだよ。」と何の躊躇いもなく言い放った。

 しかし僕から、その態度に怒りが込み上げてくることは無かった。

 始めの頃のあの振る舞い、一岡に対する行動。

 それらが、僕の中に存在する怒りの源泉を、全て遮断していた。

「そもそも、ここにいるのは君たち自身の魂。本物の体は現実で眠ってるよ。」

 アツは様々な説明をしてくれた。アツ達は、現実で生活する僕らの体に、直接触れることはできないらしい。

 だから眠った隙に、六人の魂をこの場所に連れてきたのだと。

 友花もやはり亡くなったそうだ。金持ち息子とは違い、脱水症状が原因らしい。

「だったら、あきはどうやって戻すんだ?」

「簡単だよ。この世界を消滅させればいい。」

 屈託のない笑顔を浮かべるアツだったが、僕は彼の気が知れなかった。

 もう死んだからどうなってもいいのか? 

 あっちの世界でも、友達とか出来て楽しい生活してたんじゃないのか?

「それでも、アツの命と引き換えに、脱出するのは嫌だよ。」

 僕は究極の選択をしなければならなかった。

 あきを助けて、アツを消滅させる。

 もしくは残る四人で全員心中する。

どちらも極力選びたくない道だった。もう罪悪感を背負って生きるのは嫌だった。

 悩むのも、もがくのも、苦しむのも、全部したくない。こんな試練を与えた運命を、僕は一生恨むだろう。

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