僕らは運命の意味を探していた。
 コンコン。

 ある時に、再びノックの音が僕の部屋に響いた。僕は肯定的な反応をした。

「マー君。昨日はごめんね。時間貰っちゃってさ。」

 ノック主は、あきだった。あきは、もぞもぞした様子で、パイプ椅子に座った。

「ううん、別にいいよ。で、こんな時間にどうしたの?」

 僕はそう聞き返すと、あきの顔が急激に赤みを帯びてきた。

「え、えっと……そ、その……な、何と言うか…………。」

 あきは目を泳がせながら、口淀んでいた。

 僕は初め、言葉をまとめて、整理してから話し出そうとしているのだと思っていた。

 しかし、あきの背後でこそこそ覗き見する集団を見つけて、僕はその考えを払拭した。

「おい。お前ら何やってんだよ。」

 僕はため息混じりにそう言った。

「な、何でわかったんだよ……‼︎」

「何でって、僕のベッドから丸見えだったから。見たくなくても視界に入ってくるんだよ。」

 隼人は悔しそうな表情を浮かべて、先陣を切ったように僕に言った。

「で、お前らはあきに何をさせてたんだよ?」

「何って、ま…………。」

 隼人が説明に入るタイミングで、あきは遮るように言った。

「……な、何でもない‼︎ そろそろ看護師さんがくる時間だから、部屋に戻るね。」

 僕らが目を覚まして、まだ丸い一日。

 僕らの筋肉も、未だまともに戻っていなかった。だからあきの足取りも、生まれたての小鹿のように、不安定のまま部屋に戻って行った。

 僕はその背中を見ながら、一日を締め括る挨拶をした。

「真道。お前はあきの事どう思ってんだよ。」

「好き……だよ。」

「じゃあ、なんで言わねえんだよ。付き合ってくださいって。お前、約束してたんだろ。記憶が戻ったら言うって。戻ってるはずだろ?」

 僕はあきの事を一度、死なせてしまった。それは紛れもない事実で、僕に重くのしかかっていた。

ふと、あの時の映像がフラッシュバックしてきた。

 黒い渦の中に、自分の最愛の人が飲み込まれていくその様が。

 笑顔で涙を浮かべながらおどろおどろしい雰囲気の空間に引き摺り込まれて行ったその瞬間が。

 いまでも鮮明に覚えていた。

「あいつを一度は死なせたと思ってた。しかもここに戻ってこられたのは、アツのおかげ。僕は二人を殺しかけたんだ。そんな奴が告白していいわけないでしょ?」

 あきに悪夢を見せた張本人が、告白する? 

 僕がいくら好きであきを想っていても、あきから拒否されるだけだ。

 そう僕は、半ば諦めの感情を抱いていた。

「まあ、捉え方は人それぞれだし、真道がそう捉えるなら良いんじゃない。でもさ、私も含めて皆んな、真道にそんなレッテル貼ってないわよ?」

 来海はハッキリとそう言った。

「そうだぞ。確かにアツのおかげで帰ってこれたかもしれないし、あきを酷い目にあわせたかもしれない。でも、それが真道の責任だなんて、誰も思っちゃいねえよ。」

 隼人は背中を押すように、そう言ってくれた。

 それでも僕は、罪悪感を拭えずにいた。

 人を殺める、傷つける、そんな行為の悔いはずっと心に残り続ける。

 僕の中の葛藤は、まだまだ終わりに見えないトンネルの中にいた。

「でも、やっぱり、言えそうにないよ。」

「どうしてだよ。別にあきはお前に対して、殺人犯だなんて微塵も想ってないぞ。」

「それは聞いたし、分かってるよ。」

「じゃあ、なんで…………。」

 僕は俯いて、そして細々とした声で言った。

「まだ、気持ちの整理がついてないから……。あきを幸せにする覚悟が出来てないから……。僕は、まだあきには言えないんだ。」

 これが僕の素直な気持ちだった。

 彼女に対して、気持ちを伝えたいとも思うし、結婚したいとすら考えている。

 だからこそ生半可な覚悟で、そんな言葉を口走ってはいけないと、僕は思った。

 あきは、一岡の作った世界で、僕と約束を交わしてくれた。

 その事実はあきの好意から来ているものに間違いはないと、僕も思っていた。

 しかし、今のままだとあきに罪悪感を抱えたままで、ぎこちない会話しかできないし、いつか会いたくないと思ってしまう日が来るかもしれない。僕は、そんな不安でいっぱいだった。

「そうか。まあ、そこは俺らがとやかく言う事でもねえからな。後は真道がその気にさえなってくれれば、良い話だ。俺らからは頑張れ、としか言えねえけど、応援してるぜ。」

「ああ。ありがとうな。」

 僕は簡潔にそう返すと、四人が出ていくのを見送った。

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