ごめん、なんて大嫌い
『さっきはごめん』
LINEで送られたその言葉を見たまま、何時間か放置している。
彼はいつもそうだ。喧嘩すると絶対に先に折れてくる。
最初は優しい人だと思ったし、意固地な私にはありがたかったんだけど、いつも、いつも、だと、謝られるのに慣れてしまう。
なんで謝るのよ、謝られたいわけじゃないのに。
‥‥いつも、なのだ。いつも。ワガママ言うのは私で、なだめるのは優しい彼。そういう図。
もう、うんざり。
そんな事を考えながら、何度もスマホを見る。それ以降は何も入ってこない。私が無視してるわけだからね、そうなるよね。
あーあ、‥‥こんなに時間おいてしまった。なんて返そう‥‥。
と、通知がきた。急いで画面をひらく。が、相手は彼じゃなくて大学の友人のサヤカだった。彼女の彼氏が私の彼の悠太の親友でもあった。
『アキ? 大丈夫? 今どこ?』
『電車待ってる? 何? どうかした?』
『よかった〜。よくないか。心配したよー。一緒じゃなかったの? 大丈夫なの?』
なんの事かさっぱりわからない。
その事をそのまま書いて送信する。
と、いきなり電話がなった。彼女からだった。
「なに? どうした? 話見えないんだけど」
「悠太くんだよ! 連絡きてないの? 晃一から今、悠太くんが事故ったらしいって。大丈夫なの? 一緒じゃないの?」
「‥‥え?」
私は頭が真っ白になった。
私は通話を切ると、急いで聞いた病院まで走った。意外に近くの病院だったので交通機関を使うより早いと思ったのだ。
悠太本人からは何も連絡がこない。
何度もメッセージいれたりしたのに。走りながら電話も入れたのに、繋がらない。
息があがる。やっぱりタクシーでも拾うべきだった。でも、待ち時間が惜しくて出来なかった。
大丈夫よ、これでも高校までは陸上部だったんだから。きっと間に合う。
何が大丈夫か、何が間に合うか、さっぱりわからないのに、心の中で大丈夫、間に合うって呟き続ける。
大きな総合病院にやっと辿り着く。救急車がサイレンをならして入ってくる。思わず追いかけそうになって足を止める。
待って、彼が事故にあってから時間がたってるはず。この救急車のはずがない。
私は病院の正面入り口から中に入った。診察受付時間は終わっているはずのに待合には人がまだ大勢いた。
どこに行けばいいのだろう。外来受付じゃないよね?えっと‥‥。
病院内の案内図を見つける。……手術室? いくつかあるし、いきなり行ってもだめだよね。やっぱり外来受付で聞いてみる?
あ、夜間受付、救急受付っていうのがある。ここかな?
そこは病院の建物の脇にあり、外から行った方が迷わなくてすみそうだったので、一旦外に出て向かった。建物の角をまわるとさっきのだろうか、救急車が止まっているのが見えた。
たぶん、あそこだ。
そう思って走りだそうとしたのに足に力が入らない。
どうしたんだろう。疲れたけど、でももうちょっと、だから。
もう一度、足を踏み出そうとしたら膝からガクッと力が抜けた。そのままフラフラと道の脇の芝生まで来ると座り込んでしまった。
立たなくちゃ。……でも、本当にあそこに行けばいいのかな? 誰かに聞けばよかった。
聞けばよかった。悠太どこにいるの? なんで返事ないの? なんであんな風に喧嘩しちゃったんだろう。なんで謝ってくれたのに無視しちゃったんだろう。なんで立てないんだろう。なんで……。
遠くの入り口を見つめたまま、涙が溢れ落ちた。
悠太、悠太。どうしよう。こわいよ。こわい。
こわい。悠太、ごめんね。ごめんなさい。
泣きながらそれでも立ち上がった時、後ろから声がした。「え? アキ? なんで?」
振り返ると、そこに悠太が立っていた。右足首と右腕に包帯を巻いている。私は頭が真っ白になった。
「悠太……?」
「どうしたんだ? 大丈夫か?」
悠太は私の顔を見て目を丸くすると、片足でぴょんぴょん跳びながらやって来た。
「あークソ、この足」
悠太が呟いた。
「悠太……」私は急にはっとして勢いこんで言った。「悠太こそ大丈夫なの? 事故にあったって……。怪我したの? 大丈夫なの?」
「ああ、晃一に聞いたのか。大丈夫、大丈夫。たいした事ないよ。わざわざ来てくれたのか? ごめんな」
彼はまたしても謝る。謝らなくていいのに。
「たいした事ないって本当に? だって事故って。車にぶつかったんじゃないの?」
「え? 違う違う。相手は自転車。出会い頭でさ。えっと、とりあえず座らないか?」
LINEで送られたその言葉を見たまま、何時間か放置している。
彼はいつもそうだ。喧嘩すると絶対に先に折れてくる。
最初は優しい人だと思ったし、意固地な私にはありがたかったんだけど、いつも、いつも、だと、謝られるのに慣れてしまう。
なんで謝るのよ、謝られたいわけじゃないのに。
‥‥いつも、なのだ。いつも。ワガママ言うのは私で、なだめるのは優しい彼。そういう図。
もう、うんざり。
そんな事を考えながら、何度もスマホを見る。それ以降は何も入ってこない。私が無視してるわけだからね、そうなるよね。
あーあ、‥‥こんなに時間おいてしまった。なんて返そう‥‥。
と、通知がきた。急いで画面をひらく。が、相手は彼じゃなくて大学の友人のサヤカだった。彼女の彼氏が私の彼の悠太の親友でもあった。
『アキ? 大丈夫? 今どこ?』
『電車待ってる? 何? どうかした?』
『よかった〜。よくないか。心配したよー。一緒じゃなかったの? 大丈夫なの?』
なんの事かさっぱりわからない。
その事をそのまま書いて送信する。
と、いきなり電話がなった。彼女からだった。
「なに? どうした? 話見えないんだけど」
「悠太くんだよ! 連絡きてないの? 晃一から今、悠太くんが事故ったらしいって。大丈夫なの? 一緒じゃないの?」
「‥‥え?」
私は頭が真っ白になった。
私は通話を切ると、急いで聞いた病院まで走った。意外に近くの病院だったので交通機関を使うより早いと思ったのだ。
悠太本人からは何も連絡がこない。
何度もメッセージいれたりしたのに。走りながら電話も入れたのに、繋がらない。
息があがる。やっぱりタクシーでも拾うべきだった。でも、待ち時間が惜しくて出来なかった。
大丈夫よ、これでも高校までは陸上部だったんだから。きっと間に合う。
何が大丈夫か、何が間に合うか、さっぱりわからないのに、心の中で大丈夫、間に合うって呟き続ける。
大きな総合病院にやっと辿り着く。救急車がサイレンをならして入ってくる。思わず追いかけそうになって足を止める。
待って、彼が事故にあってから時間がたってるはず。この救急車のはずがない。
私は病院の正面入り口から中に入った。診察受付時間は終わっているはずのに待合には人がまだ大勢いた。
どこに行けばいいのだろう。外来受付じゃないよね?えっと‥‥。
病院内の案内図を見つける。……手術室? いくつかあるし、いきなり行ってもだめだよね。やっぱり外来受付で聞いてみる?
あ、夜間受付、救急受付っていうのがある。ここかな?
そこは病院の建物の脇にあり、外から行った方が迷わなくてすみそうだったので、一旦外に出て向かった。建物の角をまわるとさっきのだろうか、救急車が止まっているのが見えた。
たぶん、あそこだ。
そう思って走りだそうとしたのに足に力が入らない。
どうしたんだろう。疲れたけど、でももうちょっと、だから。
もう一度、足を踏み出そうとしたら膝からガクッと力が抜けた。そのままフラフラと道の脇の芝生まで来ると座り込んでしまった。
立たなくちゃ。……でも、本当にあそこに行けばいいのかな? 誰かに聞けばよかった。
聞けばよかった。悠太どこにいるの? なんで返事ないの? なんであんな風に喧嘩しちゃったんだろう。なんで謝ってくれたのに無視しちゃったんだろう。なんで立てないんだろう。なんで……。
遠くの入り口を見つめたまま、涙が溢れ落ちた。
悠太、悠太。どうしよう。こわいよ。こわい。
こわい。悠太、ごめんね。ごめんなさい。
泣きながらそれでも立ち上がった時、後ろから声がした。「え? アキ? なんで?」
振り返ると、そこに悠太が立っていた。右足首と右腕に包帯を巻いている。私は頭が真っ白になった。
「悠太……?」
「どうしたんだ? 大丈夫か?」
悠太は私の顔を見て目を丸くすると、片足でぴょんぴょん跳びながらやって来た。
「あークソ、この足」
悠太が呟いた。
「悠太……」私は急にはっとして勢いこんで言った。「悠太こそ大丈夫なの? 事故にあったって……。怪我したの? 大丈夫なの?」
「ああ、晃一に聞いたのか。大丈夫、大丈夫。たいした事ないよ。わざわざ来てくれたのか? ごめんな」
彼はまたしても謝る。謝らなくていいのに。
「たいした事ないって本当に? だって事故って。車にぶつかったんじゃないの?」
「え? 違う違う。相手は自転車。出会い頭でさ。えっと、とりあえず座らないか?」
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