内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました
「はい。結婚できない相手なんです。で、妊娠がばれないようにすぐにでも姿を消さなきゃいけなくて」

 悠が日本に帰ってくる前に、姿を消さなくちゃいけないから。
 とにかく時間がないのだ。

「本当はもう少し計画的に辞めたかったんですけれど、どうしても急がなくちゃいけなくて」

 早くから辞める意思を固めて店長に報告すればよかったのだ。そうすれば、早めに募集をかけて、みんなにも迷惑かけずに済む。

 それができなかったのは私が紫violaでの仕事に未練があったから。
 妊娠さえなければ、ずっとこのまま働いていたかった。

「すみません店長。急で」

「いいって。千絵ちゃんの気持ちは大体想像つくからさ。店は大丈夫、ヒサ君が使える子だし」

 店長が笑ってくれてホッとする。

「それで、これからどうすんのよ」

「田舎でのんびりしようかと」

 明日ちょうど休みなので、とりあえずアパートを引き払うつもりだ。

 荷物はスーツケースひとつにまとめて残りは処分するつもり。

 そういえば、悠が買ってくれた素敵な服は着る機会がないままになっちゃうな……。

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