内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました
 実家は町の小さな工場だったようで、母いわく『あなたのお父さんに助けてもらったの』との言葉から察するに、親の借金の肩代わりに神林の愛人になったんだろう。

 それでも父の話をするとき、母の瞳は優しさを帯びていた。
 過程はどうであれ、父を憎んではいなかったと思うが。実際はどうだったのか。

「母はそんな世界に俺を送るのが嫌で、妊娠がわかったときに父のもとから去ったんだって」

「なるほどな」とため息をついた仁は、親指で僕の胸を指し楽しそうに笑う。

「この中には半分だけお前の純粋な母親の性質が残ってるってわけか」

 半分もあるかな。

 米粒ほどしかないかもね。

「さあ、食えよ。大粒の牡蠣フライだ」

「あー、うまそう。あ、そうだ仁、明日から大阪に行くからしばらく店には来れないと思う」

「大阪? ふぅん、わかった」

 仁がにやりと口角を上げる。

「いよいよか」

「うん」

 守から連絡があった。

 今度こそ捕まえる。
 逃げ足だけは早いウサギをね。


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