内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました
 アパートはもぬけの殻。
 紫violaに行くと、店長が申し訳なさそうに『行き先は聞いていないんです』と肩をすくめた。

 守の連絡先を千絵から聞いていなかったのを後悔したが遅い。

 だが、店長が『弟さんが来たんですが、伝えておきましょうか』と言ってくれたのだ。

 祈るような思いで守からの連絡を待った。

 守とさえ連絡がつけば必ず千絵は見つかる。
 連絡があったときは、心からホッとした。

 今回の騒動でようやく千絵の住所がわかり、来たのはいいが――。

 目の前の光景に唖然とした。

 二階を見上げている千絵はひとりじゃない。
 あの子どもはなんだ?

 二階に向けてぺこりと頭を下げて、ベビーカーを押しながら千絵は行ってしまうが、ベビーシッターでも始めたのか?

 まさか、千絵の子ども?

 胸騒ぎが止まらず、早速、守に電話を掛けた。

「おい守。聞いてないぞ、どうなってるんだ」

『ああ悠さん。びっくりした。いきなりなに』

「千絵が連れてる赤ん坊だよ」

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