内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました
 走馬灯のように思い出した。
 熱が高い晴太を抱いて泣きながら病院に駆け込んだ夜や、ストレスでじんましんだらけになって泣き笑いをした日。

 いつも心で悠を思ってた。

 ここに悠がいたらどんなにかって思いながら。耐えて、こらえて。

「悠……、会いたかった」

 ずっとずっと。夢に見るほど会いたかったよ。

 多分二年分の涙がどこかに貯まっていたいたんだと思う。
 泣けども泣けども、溢れ出る涙は止まらなかった。

「千絵、ありがとう。よくがんばってくれた」

 悠はやっぱり夢にみた悠で。
 どこまでも優しく、私を包んでくれた。
 


 それから数日後。
 私たちは籍を入れて夫婦になった。

 お鍋からは、鶏とネギのいい匂いが漂っている。
 離乳食用の料理雑誌を片手に、悠が出汁から作ってくれたのだ。

 雑誌にあった通り、晴太の分は最初から別に、薬味や調味料を抜きにして。なんとも手際がいい。

 本当にいいんだろうかと、思わなくもない。

 流れのまま結婚しちゃったけれど、私ったら手切れ金までもらっているのに。

 倍返しとか言われたらどうしたいいんだろう。
 そういう問題じゃないけれど。

「晴太ー、アーンして」と、食事中は悠がつきっきりで晴太を見てくれる。

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