内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました
 一度はちゃんと聞いておかないと……。

「ねえ悠。神林家には本当に帰らないつもりなの?」

 悠はうなずく。

「言っただろ。六歳になる双子の弟と妹がいるから、跡取りにも困らないし」

「シルKUは?」

「そっちももう済んだ話。そのうち父もあきらめるだろう」

 はぁ、そうですか。

 でもね、私は気づいているんですよ。

 ガーデンチェアに腰を下ろして、あなたはなにかをジッと考えている。

 家庭菜園をして、いいパパをしている悠は好き。

 だけど悠は――。

 ねえ悠、心に迷いがあるんでしょ?

 だから、ここは買ったんじゃなくて賃貸なんでしょう?

 悠はね、もうあっち側の生活を知ってしまった人なんだよ。大勢の人の人生を背負って、頼られて、先頭を切って前を進む生き方が体に染み付いているんだよ……。

 ほうれん草のカレーはむしろ甘いはずなのに、口の中に広がるのはなぜか苦味のような気がしてくる。

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