内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました
 ホテルのロビーのような玄関を入り、案内されるまま中へ進む。

 神林氏は、応接室と思われる部屋のソファに腰を沈めていた。

「ああ、どうぞ、いらっしゃい」

「つまらないものですが」

 つくばの駅ビルで買ったのは、一番高かったチョコレートの詰め合わせ。時間がなかったから、値段だけで決めた。

 エプロン姿で入ってきたのは奥様ではないようだ。年輩の女性は家政婦さんなんだろう。「ありがとう」と受け取ったチョコレートをお父さまは家政婦さんに渡す。

 今この家に奥様や双子の子どもたちはいないのだろうか。ひっそりと静まりかえっているけれど。

「コーヒーでいいかな?」

「はい」

 家政婦さんと一緒に弁護士さんも出て行った。部屋にはお父さまと私のふたりきりになり、いよいよだと思うと喉の奥が苦しくなる。

 膝の上の手をギュッと握った。

「それで、今日は?」

「お時間ありがとうございます。悠さんの件で、事実を知りたいんです。彼がどうしてこの家を出なければならなかったのか」

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