内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました
「ごめんね。次に帰ってきたら一緒にゲームをしよう」

「ほんとに?」

「ああ。指切りしようか」

 双子をなだめながら席を立つと、父が「悠、今日は一緒に出社しよう。話がある」と声を掛けてきた。

「わかりました」


 玄関を出ると、黒塗りの大型車を手袋をした運転手が羽根で埃を払っていた。

「おはようございます」

 挨拶を交わし、車の中で父を待つ。

 神林家は何代かさかのぼると旧華族という家柄で、優秀な事業家一族でもあった。

 父も例外ではない。いくつかの企業を吸収し、株式会社シルKUを祖父の代から倍の規模に大きくしている。

 十五年前、児童養護施設に現れたのは父ではなく、当時父の秘書だった岡安だ。岡安は事情を説明し僕にDNA鑑定をお願いしたいと言った。

 あのとき僕は無性に疲れていた。

 疲れていなければ、ここにはいなかっただろう。もともと父を頼るつもりなどなかったから。

「揉めている案件でもあったか?」

 車に乗るなり父が聞いてきた。
 しばらくマンションに寝泊まりする理由が気になるんだろう。

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