内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました
私が恋をするはずはないし、心から悠の幸せを望んでいる。素敵な令嬢と結婚してほしいと、本当に願っているのに。
私のように恋もできない歪んだ女じゃなく、両親に愛されて育った幸せな女性と――。
それなのに、この胸に広がる暗雲はなんだろう。
「ただいま戻りました」
「お疲れ様っす。あれ? 随分暗いですね」
ヒサ君が怪訝そうに見る。
「お客さんになんか言われちゃいました?」
「ううん。桜だって喜んでくれた。ちょっと寝不足なだけよ」
「あー、悩める年頃なんですもんね」
「そういうこと」
意味ありげにニヤリと目を細めるヒサ君は、親指を立てる。
「なによ」
「もうすぐバレンタインですもんね」
「ブー。私には無関係なイベントでーす。ヒサ君だって知ってるでしょ」
「今年こそ俺にはくださいよね」
「あげないよ。義理は店長だけって決めてるの」
「えー」と唇を尖らせるヒサ君はさておき。
そっか、バレンタインなんだよね。
悠にはなにかあげたいけれど、遠慮するしかないな。
ふいにまたしても切なさがこみ上げて、大きなため息をついた。