内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました
「仕事で女性ものの香水とか化粧品とか扱っているとね、そういう空間にも入ってみたいわけ」

 ん? そうなのか。
 となると、無下に断るのも憚られるわけで。

「わかった。じゃ、快く買ってもらっちゃおうかな」

 うなずく悠のうれしそうな顔を見ていると、私もうれしくなる。

 実際のところ遠慮する理由にならないほど今の彼は資産家だ。お金持ちはたっぷりと経済活動をしてもらわないとね。
 なんて都合のいい言い訳で、理性に蓋をした。

「じゃ、ここ見てみよう」

「えっ、こ、ここは」

 言わずと知れた有名ブランドだ。

 モデルのように綺麗なお客さんが、ぽつりぽつりとしかいないような高級店である。

 ちょっと。私の今の格好見てよ、薄汚れたジーパンに、着古したダウンジャケット。中はよれよれのパーカーなんですけど?

「あ、待って」

 立ち止まろうとする私の手をぐいぐい引いて、悠は止める間もなく店内に入っていく。

「いらっしゃいませ」とにこやかな笑みを浮かべる店員さんは、支払いは悠だとわかっているのだろう。
 そうじゃなければ、近寄ってもこないはず。

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