内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました
「あさってからベトナムに出張が決まった。二週間は会えなくなる。それで会いに行ったんだよ」

 えっ、そう、なんだ……。

 鼻腔をくすぐるのはカレーのスパイシーな香り。

 刺激的で味わい深くて、飽くなき食欲をそそるカレーは、まるで悠との行為のよう。どんなに繰り返しても、またすぐ肌を合わせたくなる。

 二週間か。

 そんなにも会えないのかと、悲しくて切なくて、悠の頭をギュッと抱え込んだ。

 会いたくなかったはずが、一秒さえ離れたくない。

 私の心は矛盾だらけだ。



 悠がベトナムに向かう日の、朝まで私は悠の部屋にいた。

 ご飯を作って、悠の帰りを待って掃除して、「いってらっしゃい」と、見送る。

「戻ったら、あの服を着てレストランで食事をしよう」

「うん」

 キスをして手を振って、これじゃまるで妻みたいだよ。

 幸せで、悲しくなった。

 だって私はわかっているから。
 幸せも度が過ぎると、不幸を呼ぶってね……。
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