内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました
最初に現れたのは――。
私がちょうどレジカウンターで接客をしているときだった。
小さな花籠を手に会計を済ませた彼女は、にっこりと微笑みかけてきた。
「すみませんが、後でいいので、少しお時間よろしいでしょうか」
ハッとした。
彼女が店に入ってきたときから、予想していたけれど、ただのお客さまであって欲しかったのも事実なわけで。
交通違反の切符を切られたような気分だ。見つかってしまったか、というような。
「お忙しいですか? お昼休みとか、どうでしょう」
「えっと……は、はい。私の休憩時間は一時なんですが」
今は十一時。まだ二時間もある。
「はい。わかりました。では、どこかで待ち合わせを」
通りを振り返り言いよどむ彼女は、この辺りの店に詳しくはないのだろう。
私から近くの路地にあるカフェを指定した。一時ならそれほど混んではいないはずだから。
軽い会釈をして店を出ていく彼女は、シルKUのイベントで見た悠のお見合いの相手である。