内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました
お昼休みになり、私がカフェに駆けつけた時間は一時を少し回っていた。
お客様が立て込んでいて、これでも謝りながら店を出てきたんだけれど。
カフェの店内を見回しても、彼女の姿はない。
「お一人様ですか?」
「いえ、後からもうひとり、来るはずですが」
十分の遅刻。遅れたから帰ってしまったとか?
いっそその方がいいと思いながら、オムライスのランチセットを頼み先にコーヒーをお願いする。
コップの水を飲んでひと呼吸。
「ふぅ」
それにしても不思議だ。
彼女は、どうやって私にたどり着いたんだろう。
悠とは三回しか会っていないし、昼日中に手を繋いでデートをしたわけじゃないのに。
悠がベトナムに行っているときを見計らっては会いに来たんだろうし。万が一、悠の生い立ちを聞かれたらどうしたらいいの?
鬱々と考え込みながら、届いたコーヒーを飲み始めたときだった。
「お待たせ」
甘い香りを漂わせながら彼女は現れた。
カシミアのコートは空いている椅子に掛けて、静かに腰を下ろす。
コートの中はセーターで、袖にボリュームがある暖かそうな襟高ニット。そんなに可愛らしい服はいったいどこで売っているんだろう。
なんて、どうでもいいところに感心してしまう。
彼女がウエイトレスに告げたのはカプチーノだけだった。
「食事は済ませたの。気になさらないで」
「はい」
見た目と違って、淡々とした話し方をする女の子だ。どうみても二十代半ばだろうに、年齢よりもずっと落ち着いて見える。
口を開いた彼女はジッと私を見た。
「私をご存知なんですね。名前も用件も聞かれなかったから」