内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました

 すれ違っただけで目を合わせていないから確信がない。仮にあの子だとしても、僕が誰かはわからないだろう。

 今の僕はオーダーメイドのスーツを着て磨きあげた靴を履き、限定数本しかない高級腕時計なんてものを身に着けている。

 ガラス窓に映る自分を見ながら思った。昔の面影は、どこにもないかもしれない。

 間もなく届いたシャンパーニュを味わいながら、十五年の月日を考えた。

 あの頃の僕は中学生、あの子は小学生だった。

 一度は完全に忘れていたのに、最近になってよく思い出す。

 そして無性に会いたい。

「お待たせ」

 振り返ると彼女が立っていた。

 もったいぶるように必ず十五分は遅れてくる彼女は、僕の見合い相手、カレン。ふたりで会うのは今回で三回目だ。

「待ったかしら?」

「いえ」

「ふふ。ありがとう」

 薄くて寒そうに見えるワンピースはシルクなんだろう。見た目にも柔らかそうだ。

 シルクが意外なほど保温性に優れていると知ったのは、僕が神林家に来て下着の全てがシルク製に変わってから。薄く見える彼女のワンピースも、きっと暖かいのだろう。
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