内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました
 嫌な印象を受けるけれど、それが普通の世界なのかな。私にはその感覚がよくわからない。

「私はただの友人ですが、聞きたいこととは?」

「悠さんと私が結婚するとして、反対はなさらない?」

「ええ」とうなずいて、心からの笑顔を送る。
 少なくともあなたと悠の邪魔をする意志はないと伝わるように。

「そうですか。安心しました」
 本当に安心したのか、もともと不安などないのか。顔色ひとつ変えずに、またひと口彼女はカプチーノを飲む。

 良かった。とにかく納得してもらえたなら、それでいいと、肩の力を抜いたとき。彼女の口調が初めて変わった。

「結婚したら、彼の浮気は許さないつもりです。もし浮気しているとわかったら、私の人生をかけて、彼と浮気相手を叩き潰そうと思います」

 強く言い切り、ゾッとするような冷たい目で私をジッと見た彼女は、艶かな唇を横に広げてニヤリと笑う。

 絶対に許さないという強い憎悪に襲われて、ヒヤリと背筋が凍りつく。

「でも安心してください。浮気しない限り、私は心から彼を大切にしますから」

 今度は打って変わって柔らかく、菩薩のような優しい笑みを浮かべるこの女性はいったい――。
 その先を考えようとしてやめた。
 私が余計なことをして話を拗らせてはいけない。

「そうですか、よかったです」

 バックを手に腰を浮かせた彼女は、テーブルの上の伝票を手に取った。

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