内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました
「呼び出して申し訳なかったです。お詫びにお会計は私が済ませておきますね」

 カプチーノのほとんどを残し立ち去る彼女の背中を見つめながら、その姿が通りへと消えてようやく私はお礼を言うのを忘れていたと気づいた。

 圧倒されてしまって、口の中がカラカラに乾いている。

 冷めたコーヒーを一気に飲んだ。

「はぁー」

 怖いし優しげだし、なんなの?
 極端過ぎない?

 どういう人なんだろう。
 意志のない人形のようなお嬢様ではないのは間違いなさそうだ。

 悠はあの人と結婚して、幸せになれるのかな。

 心配になるけれど、悲しいかな私にはなにもできない。

 悠が彼女を理解した上で結婚するなら、それでいいと思うしか。

 でも、大丈夫なんだよね?

 悠が嫌だったら、無理やり結婚させられたりしないよね?

 忘れていたオムライスを口に運ぶ。

 味なんてよくわからない。
 でも、とりあえず食べなきゃ。食べて力をつけて。

 私は私で、すべてを乗り越えるために、勇気と元気をつけないと。

 悠は大丈夫、弱い人じゃないから自分で解決できるはず。
 彼女とは結婚に結びつかなくても、縁談なんてほかにもたくさんあるはずだから。

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