内緒の出産がバレたら、御曹司が溺甘パパになりました

 弁護士さんの予告通り、アパートの前に黒塗の車が止まっていた。

 もはや、どうして私のアパートを知っているのと疑問に思う気持ちも起きなかった。

 この人たちの世界では個人情報の保護なんてどーでもいいんだわ。

 私が自転車を止めている間に、男性がふたり車を降りてきた。
 店に来た弁護士さんの隣りに立つ紳士は、おそらく悠のお父さまなんだろう。

 大企業の経営者ともなると羽織るコートも立ち方も、そこらのおじさまとは、なにもかもが違うらしい。いるだけで圧を感じるというかオーラがすごい。

「こんばんは」と、深々と頭を下げながら、早くも泣きたくなった。

「こんばんは。少しよろしいかな」
「はい」

 どこか店で会うのではなく、わざわざ私のアパートを訪ねて来るからには、暮らしぶりを見に来たに違いない。
 簡単に挨拶を済ませて、ご要望通り、部屋へどうぞと促した。

 すると、お父さまだけが私の後に付いてくる。弁護士さんは車の中で待つようだ。

 弁護士さんにも聞かれたくないような話をされるのかしらと、また気が重くなる。

 今日の今日だから、特に片づけてもいない。もとから散らかしてもいないとはいえ、本当は嫌だけれど仕方がない。

 前もってわかっていたとしても、なにもしなかったと思うし。

 正直、私の気分はやさぐれている。
 煮るなり焼くなりどうぞお好きなようにと、心でつぶやいた。
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