帰ってきた童貞くん

トイレの子

 僕は持病で、よく腹痛が起こる。
 一度、症状がおきると、トイレをすぐに探さないとヤバい。
 失敗して、大惨事になってしまう。
 真面目な話、成人してからも、何十回と失敗している……。

 家の中ならそりゃキレイにしてしまえば、いいのだけど。

 外出中は本当に困る。
 特にデパートなんかが、一番困る。

 男女差別ではないのだけど、高層ビルのうち、1階が女子トイレのみ、2階が男女トイレ、3階がまた女子専用トイレという変なサンドイッチ構造が多い。
 きっと女性の方が、個室利用が多いのだろう。
 
 ある日、僕はカノジョとデートしていた。
 腹いっぱいステーキを食った。

 そんな油っこいものを食べたら、必ず腹が痛む。少しのタイムラグがある。
 だから参ったもんだ。
 急に激痛が走って、ケツを手で抑えながら、走りだす。
 カノジョは心配して「童貞くん、がんばって!」と応援する。
 長い事付き合っているから、もう慣れっこなのだ。

 ハァハァ……腹痛と漏らしそうな恐怖を抱えて、僕は脚をくねくねさせながら、急ぐ。
 
 やっとのことで、トイレが見えたと思ったら、猛ダッシュだ!

「アアアッ!」

 ここまで叫んではいないが、息遣いはかなり荒かったと思う。
 ちょうど男子トイレの前に、女子高生が歩いていた。

「ハァハァ……アッ!」

 僕の声に気がついて、こちらを振り向くと、なぜかビックリしていた。
 当時の僕は、体重110キロで、丸坊主。ナイスガイだ。

 そんな僕を見てか、JKちゃんは「ひゃっ」といいながら、なぜか男子トイレに駆け込んだ。
「え?」
 意味がさっぱり分からなかった。
 なんで若い女子高生が男子トイレに?
 まさかあれか、今話題の女装男子か……。

 そう思って、僕も彼女のあとを追うように、男子トイレに入る。
 JKちゃんは中で目が合う。
 すると「あ、ごめんなさい」と言って、気まずそうにトイレを出ていった。

 まさか!
 久々に……この子、僕に惚れているのかもしれない!
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