幼なじみの憂鬱

朝陽は喜怒哀楽をあまり顔に出さない。

無表情とまではいかないけど、笑う時でさえふふっと鼻で笑って肩を揺らすぐらいだ。

その朝陽の表情が、今日はなんだか柔らかい。

口元が緩んでいて、目元も下がっている。

いつものどんよりとした負のオーラもない。


「何か、いいことでもあった?」

「え? いいこと?」

「ため息つきながら笑ってるって、かなり気持ち悪いよ」

「僕、笑ってた?」

「うん」


「そうかなあ」なんて言いながら、朝陽は両手で顔を覆った。

「何よ、言ってみなさいよ」

「嫌だよ、凪咲に言ったら、絶対笑うし」

「絶対笑わないから」

「絶対笑わない?」

「絶対笑わない」


私は朝陽の目を真正面から見据えて言った。

朝陽は私に向ける疑いの目を一旦外す。

そして、夜の闇を貫くようなまっすぐな目をして遠くを見た。

その闇の中に、ぼそりとした朝陽の声が放たれた。


「一目惚れ、した」


「……え?」


固まって何も言えなくなる私に、朝陽は再びゆっくりと視線をよこした。


「好きな人が、できた」


ほんとは何を言っても笑ってやるはずだった。

だけど、笑うのを忘れた。


「あれ?笑わないんだ」

「え?」


「だって、僕が一目惚れって……。

 それにさ、入学して早々人を好きになるって、おかしいよね。

 人を好きになるって、普通相手のことを知って、友達になって、そこから特別な人になっていくのにさ。

 僕、世の中に一目惚れなんてありえないと思ってたのに。

 まさか自分がと思って」


朝陽は興奮気味にそう話す。

それで、あのため息というわけか。

< 11 / 58 >

この作品をシェア

pagetop