幼なじみの憂鬱
朝陽が「あいつ」と呼ぶので、私も「あいつ」と呼ぶ。
私は友達でもないのに。
だけど朝陽も、「あいつ」の名前を言わなかった。
いつも「あいつ」だった。
「あいつ」はクラスは違うけど、サッカー部が同じで、サッカーがめちゃめちゃ上手いそうだ。
だけど目立ったりすることが嫌いで、いつもアシスト役に回ることが多いらしい。
ボールを運んで、シュートを決められそうな人にパスを回して、自分では決してシュートを打たない。
「でも、それがあいつっぽいんだよね」
あいつの話をするとき、朝陽は楽しそうに話す。
「僕が言うのもなんだけど、あいつ、見た目もパッとしないし、教室でも部活でも目立たないようにしてて、存在感薄くて……、なんていうか、空気みたいなんだよね。
いるのにいないふりが上手いっていうか」
「ほんと、朝陽に言われたくないよね」と直球で返すと、朝陽は唇を突き立てて目を細める。
その顔が私のお気に入りだ。
いつもなら「うるさいなあ」とか言って小さな反撃をしてくるんだけど、今日の朝陽はすぐに穏やかな表情をとり戻した。
「なんか、僕と似てるんだよね。空気感が」
__似てる……空気感。
忘れかけていた「彼女」が、私の脳裏をかすめていった。
朝陽の顔をもう一度見直すと、朝陽は珍しく活き活きとした顔を夜空に向けていた。
星の煌めきがその顔に映りこんだかのように輝いて見えた。
その表情に見とれていると、「はあ……」と、朝陽はいつものため息を漏らした。
それと同時に、煌めきが散っていく。