幼なじみの憂鬱
実は以前、一度だけ声をかけられた。
連絡先を教えてほしいと。
だから完全に面識がないというわけではない。
だけどその時はまだスマホなんて持ってなかったし、持っていても教える気はなかった。
友達には散々、「もったいない」とか「羨ましい」とか言われけど、私はどこ吹く風だった。
後ろ髪惹かれたりはしない。
だって彼はたとえイケメンであっても、私の幼馴染みにはなりえないから。
恋愛対象外、恋人候補外だ。
誰もがうらやむ完璧王子に連絡先を聞かれたんだから、朝陽に言ったら嫉妬してくれるかな……なんて期待した。
だって、幼馴染みの恋に嫉妬はつきものでしょ?
それなのに、
__「……だれ?」
それが当時の朝陽の答えだった。
まあ、他校のテニス部の顔も知らない、人気のすごさも知らない男子の名前を出されて、当然の反応だったとは思うけど。
幼馴染みとしてちょっとは嫉妬してほしかった。
他の男子に連絡先聞かれたんだから。
それって、私に気があるってことでしょ?
まあ、朝陽にはわからないか。
それ以来、私たちの話題に本田君が持ち出されることはなかった。