幼なじみの憂鬱
それがどうしたことだろう。
もしかして、今さら嫉妬だろうか?
そもそも朝陽がそんなこと覚えているとも思えないけど、淡い期待を抱いて答えを返した。
「本田君って、私が中3の最後の試合の時、連絡先聞いてきた人じゃん。
朝陽にも話したでしょ?」
「……そう、だっけ?」
案の定、完全に忘れている。
だけどその声は低く重かった。
「え? 何? 本田君となんかあった?」
本田王子と地味男子代表の朝陽に接点があるとは思えない。
何も答えない朝陽の顔を、フェンスの隙間から覗き見た。
その表情に、私ははっとした。
いつも伏せられた目元が、きりっと鋭くなっていた。
私の方に向けられたその目は、氷のように冷たかった。
「やっぱ、凪咲から見ても、本田ってかっこいいの?」
「え? うーん……まあ……そうだなあ」
ほんとは何とも思わないけど、濁しながら肯定しておく。
爽やかイケメン王子というのは確かだし。
ここは本田君の名誉のため、そして幼馴染みの嫉妬を獲得するため。
だけど、朝陽の返事は「ふーん」とただそれだけだった。
返事としては微妙で、私としては物足りない。
だけどその厳しい目つきは変わらない。
その目のぎらつきに、私の胸の鼓動が不穏な動きをする。
朝陽の顔が怖いからじゃない。
そこには、私の知らない朝陽がいたからだ。