幼なじみの憂鬱
いつもならここで、「もう諦めなよ。朝陽なんてはじめから眼中にないんだから」なんて、軽口のひとつやふたつ叩けるんだけど、こんな話を、こんな表情で話すのを見聞きしてしまったら、その時の朝陽の表情や気持ちを想像してしまったら、いくら私でも、そんなこと言う気にはなれなかった。
それなのに朝陽は、私が決して口には出さないと決めたその言葉を、淡々と言ってのけた。
「彼女も、あいつのことが、好きなんだ」
まるで、自分で言ったその言葉を、自分で言い聞かせて確認しているように言った。
朝陽の表情も、息遣いも、緊張感も、全部私に伝播する。
そのどれもが、苦しい。
だけど、話を聞いている中で感じた違和感に、思わず上ずった声が出た。
「え? でも、待って。彼女は、ずっと本田君のことが好きだったんでしょ?
早々にあいつに乗り換えたってこと?
二人はもう付き合ってるの?
展開早すぎない?」
もう少し、朝陽の心中に配慮した声かけをするべき場面なのだろう。
私の頭は、本来ならこんなに優しい気遣いができるはずなのに、私の頭を置き去りにして、口元ばかりが勝手に混乱を口走る。
「だから、わからないんだ」
「え?」
「彼女は本田のことが好きだった。だけどフラれた。
その直後に、あいつと彼女の間に何かが起きたんだ。
そして、すでに何かが生まれてるんだよ。僕の知らないところで」
「何かって、何よ?」
「だから、わからないって言ってるじゃん。
いつどこで、どうやって二人が接点を持ったのか、距離を縮めていったのか。
何が起こったのか、何が起こっているのか。
僕には、ひとつもわからないんだ。
どうして気づかなかったんだろう。
こんなにも近くにいたのに。
ずっと彼女のことを見ていたのに。
あいつと彼女だって、教室では話したり、話しかけたりも全然なかったのに。
そんな素振りなかったのに。どうしてそんなことになるんだよ」
そう言う朝陽の様子は、まるで野獣が吠えているようだった。
いや、実際は吠えるなんてこと、朝陽は絶対しないんだけど、こんなに自分の感情をむき出しにしている朝陽は、今までいなかった。