幼なじみの憂鬱

いつものように9時ごろ外に出ようと、玄関の扉をそっと開けた。

半分開いたドアの隙間から、朝陽がいつものように階段に座っている姿がちらりと見えた。


__あ、いる。


ほんの二日ぶりに見るのに、すごく久しぶりに会えたような気がして、なんだか胸が高鳴った。

朝陽は頭を抱えて、体を揺すって、「はあ」とため息を漏らしていた。

手のひらで目元や顔をごしごしとこすっては、「はあ」とため息を繰り返す。

その様子は、いつもと違った。

そこから感じるのは、「焦燥感」。

最近現代文の授業で知ったこの言葉の意味は、辞書を引いて明確な意味を知らなくても、何となく嫌な感じが伝わってくる。

今の朝陽には、その言葉の響きや漢字そのものがぴったりだった。

今日はやめておこうと家の中に戻ろうとした時、指の隙間から私の方にちらりと視線をやる朝陽と目が合った。


「凪咲?」


小さく呟かれた名前にどきりとした。

二日ぶりに聞く声は、朝陽の声じゃないような気がした。

低くて大人びていた。


「今日は、出ないの?」


朝陽は色っぽい声で私に聞いた。

その声にドキドキしながらも、私は外に引き返した。

声だけで心拍数が上がってしまったのを誤魔化すように、急いで階段に腰かけた。

そして平静を装った。

朝陽が座る階段の傍らには、よく見る京都土産が置かれていた。


「今日、帰ってきたんだね。おかえりー。おっ、生八つ橋。食べていい?」

「……うん」


小さくて短い返事だったのに、朝陽の低い声はお腹の辺りにしびれるように響いた。


「てか自分にお土産って、寂しくない?」

「自分にじゃない。うちに買ってきたんだよ」

「なんで一人で食べてんの?」

「やけ食い」


__生八つ橋8枚、やけ食い?


ただならぬ状況に、私は八つ橋を取りに行こうと上げかけた腰をもう一度おろした。


< 39 / 58 >

この作品をシェア

pagetop