幼なじみの憂鬱
いつものように9時ごろ外に出ようと、玄関の扉をそっと開けた。
半分開いたドアの隙間から、朝陽がいつものように階段に座っている姿がちらりと見えた。
__あ、いる。
ほんの二日ぶりに見るのに、すごく久しぶりに会えたような気がして、なんだか胸が高鳴った。
朝陽は頭を抱えて、体を揺すって、「はあ」とため息を漏らしていた。
手のひらで目元や顔をごしごしとこすっては、「はあ」とため息を繰り返す。
その様子は、いつもと違った。
そこから感じるのは、「焦燥感」。
最近現代文の授業で知ったこの言葉の意味は、辞書を引いて明確な意味を知らなくても、何となく嫌な感じが伝わってくる。
今の朝陽には、その言葉の響きや漢字そのものがぴったりだった。
今日はやめておこうと家の中に戻ろうとした時、指の隙間から私の方にちらりと視線をやる朝陽と目が合った。
「凪咲?」
小さく呟かれた名前にどきりとした。
二日ぶりに聞く声は、朝陽の声じゃないような気がした。
低くて大人びていた。
「今日は、出ないの?」
朝陽は色っぽい声で私に聞いた。
その声にドキドキしながらも、私は外に引き返した。
声だけで心拍数が上がってしまったのを誤魔化すように、急いで階段に腰かけた。
そして平静を装った。
朝陽が座る階段の傍らには、よく見る京都土産が置かれていた。
「今日、帰ってきたんだね。おかえりー。おっ、生八つ橋。食べていい?」
「……うん」
小さくて短い返事だったのに、朝陽の低い声はお腹の辺りにしびれるように響いた。
「てか自分にお土産って、寂しくない?」
「自分にじゃない。うちに買ってきたんだよ」
「なんで一人で食べてんの?」
「やけ食い」
__生八つ橋8枚、やけ食い?
ただならぬ状況に、私は八つ橋を取りに行こうと上げかけた腰をもう一度おろした。