幼なじみの憂鬱
「な、何してんの?」
「今日、流星群ってニュースで言ってたから、ちょっと外出てみようと思って」
そう言いながら、朝陽は夜空を仰いだ。
「ほんとはトイレに行きたくなって、そしたら目が冴えてきて」
朝陽は肩を小さく揺らして笑った。
「流星群っていうから、大量の流れ星が流れてくると思ったけど、そうでもないんだね。
もう10分ぐらいしここにいるけど、まだひとつも見てない」
「そんな恰好で、寒くないの?」
朝陽はパジャマにしているスウェットの上から薄そうなダウンジャケットを羽織って、両手をそのポケットに突っ込んでいる。
足元は、裸足にサンダルだった。
「うん、ちょっと寒いかな」
そう言いながら、ダウンのファスナーを首の一番上まで上げた。
その恰好が、ちょっとダサい。
「凪咲は暖かそうだね。ちゃんと準備してたんだ」
「うん、まあ」
「凪咲は昔からこういうイベントごと好きだもんね。
何年に一度のイベントとか、オリンピックとかワールドカップとか。
そんなに詳しいわけでもないのに」
「うるさいなあ」
朝陽と久しぶりに話せたのがなんだか嬉しかった。
いつもと何も変わらないやり取りに、自然と頬が緩んだ。
でも、にやけた理由はそれだけじゃない。
朝陽が私のことを、知っててくれたことが嬉しかった。
覚えててくれたことが嬉しかった。
朝陽の心の中にも、私がちゃんといることが嬉しかった。
「とくべつ」になれた気がした。
私は口元が緩むのを誤魔化すように、階段に座った。
そして夜空を眺める朝陽に倣って空を仰いだ。
しばらく眺めていたけど、星はいっこうに流れてこない。
その代わり、朝陽の声が夜空に放たれた。