幼なじみの憂鬱
「あいつ、告られた」
「えっ?」
思わず大きな声が出た。
その声は、静かな夜の空気をどこまでも震わせた。
慌てふためく私の様子を、朝陽はふふっと肩を揺らして笑った。
「彼女じゃないよ」
「え?」
「あいつに告白したのは、学校の、マドンナ」
「な、何それ、マドンナって。何時代?」
私の質問に、朝陽はまたおかしそうに笑う。
肩の揺れがさっきよりも大きくなった。
「別に普通じゃない? 凪咲だって、中学ではマドンナ的存在だったでしょ?
美人で、明るくて、みんなから頼られて、友達もたくさんいて、人気者で……。
つまり、そういうこと」
「別にそんなんじゃ……」
私の場合、もちろん性格もあるけど、朝陽の自慢の幼馴染みでいたかったから、なんというか、それは演出だ。
明るい性格の主人公に、ツンデレな幼馴染みがいるのはよくある設定だ。
朝陽はツンデレではなく、ただの自信のない地味な男子だったけど。
だけど朝陽に面と向かって「美人」とか「明るい」とか言われると、かなり恥ずかしい。
寒さの中で、頬だけがかあっと熱くなるのが分かった。
「僕の手には、絶対届かない存在だよ」
夜空に放たれた小さな声は、そう言ったような気がした。
だけど、どこまでも広がる真っ暗闇の中を探しても、その声はもうどこにもなかった。