幼なじみの憂鬱

「で、マドンナとはどうなったの?」


「付き合ってる人がいないなら付き合ってほしいって。

 あいつ、付き合ってる人はいないけど、付き合えないって」


そう言って、朝陽は私の顔をフェンス越しに覗き込む。


「あいつ、付き合ってる人、いない」


そう言った朝陽の顔の背景で、星がきらりと流れたのが見えた気がした。


「そっか。彼女と、まだ付き合ってなかったんだね」

「うん。

 凪咲の言う通り、付き合ってなくても……その……、ああいうこと、するんだね」


私はちょうど二週間前に朝陽にした行動を思い返した。

頭の血がさっと引いていくのがわかった。

朝陽も勝手に思い出して、自分で言っておきながら、急に気まずそうに言葉を濁した。

でもすぐに、はっきりとした声で言った。


「この間は、ごめん。突き飛ばして。その……肩、痛かったでしょ」

「ああ、ううん、全然平気」


あの時のことを思い出して、さっきまで何ともなかったはずなのに、朝陽に突き飛ばされた部分がズキンと疼いた。


「それに、あんなことさせて、ごめん。僕なんかのために」


「別に、謝ることじゃないよ。あんなの普通だって。

 それに、私たち、幼馴染みだし」


ほんの少し前みたいに、自信を持って強く言えない自分が今日はいる。


__幼馴染みだったら、ああいうこと、普通にするのかな。


私が心の中で思った疑問に、朝陽は答えてくれた。


「普通じゃないよ。

 そういうのはやっぱり、大切な人にするもんだよ。……好きな人、とか」


最後の言葉を、朝陽は本当に小さな声で呟くように言った。


「あいつも彼女も、好きだからそうしたんだよ。好きだから、できるんだよ」


__好きだから……。


「凪咲は、違うでしょ?」


「え?」


私に向けられた朝陽の目に、私は戸惑った。


__私が朝陽にあんなことしたのは……、私は、朝陽のことが……


私が何か言う前に、朝陽は真剣な顔で話を戻した。


「あいつ、彼女とは付き合ってないけど、彼女のことは好きだって。

 僕にはっきりそう言ったんだ」


朝陽の声は震えていた。

寒さだけが原因ではないことぐらい、私にもわかる。


「かつみのくせにさ、恥ずかしげもなくはっきり言うからちょっとムカついて、僕聞いたんだ。

 彼女がまだ、本田のことが好きだったらどうするって」


私はその答えを、息をするのも忘れて待った。


「そしたらあいつ、それでもいいって。好きだからしょうがないって。

 それでも彼女のことが、好きなんだって」


その言葉を聞いて、二週間前の朝陽の言葉が再び脳裏をよぎっていく。


__「それでもやっぱり、彼女が好きだから」


思い出して、また胸の辺りがもやりとする。


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