幼なじみの憂鬱
私の体がまた疼き始める。
あの時みたいに、腕を伸ばしたくなる。
そのもさもさとした髪に触れたくなる。
頼りない背中や肩に、そっと触れたくなる。
フェンスの向こうの、特別な人に。
「はあ……カッコ悪」
__イケメンじゃなくても、一生懸命リフティング練習している朝陽はかっこよかったよ。
いまだに下手くそだけど。
「なんか、情けない」
__当たり前の親切を地味にできる優しさがあるの、知ってるよ。
それ、誰でもできるわけじゃないから。
「諦めなきゃって、頭ではわかってるんだよ」
__高校受験のために、パッとしない成績をぐっとあげるための地道な努力をしてたのも見てたよ。
ほんとは頭いいんだよ、使う分野が違っただけで。
「だけどやっぱり、無理なんだ」
__ネガティブなりの諦めの悪さ、嫌いじゃないよ。
私は朝陽のこと、ちゃんと見てるよ。
いつもそばにいるよ。
これからも、朝陽のこと見てるよ。
私は朝陽のこと、特別な存在だと思ってるよ。
だから__
「私が、いるじゃん」
「……え?」
「朝陽のそばには、私がいるじゃん」
「……凪咲?」
「朝陽にはいいとこいっぱいあるよ。それを一番わかってるのは、私じゃん。
小さい頃からずっと一緒にいて、朝陽のことずっと見てきたんだから。
だから、そんな恋、もう忘れてさ、もういっそ……私と、付き合っちゃえば?」
玄関の温かなライトに照らされた朝陽の目が一瞬大きくなった。
何でもないふりして、明るく勢いつけて言ったけど、本当は恥ずかしくて、心臓はバクバクしていた。
勢いは、勇気だ。
寒いのに、顔だけがかあっと熱くなってくる。
それを表に出さないように平静を装って、私は朝陽の視線から逃げない準備をした。
口元がまだ何か言いたげに、ふるふると震える。
それはもしかしたら言い訳かもしれない。
自分の気持ちを誤魔化す準備なのかもかもしれない。
だから、その口をぐっと結んだ。
これ以上、何も出てこないように。
出てきてほしいのは、もっと、別の言葉。