幼なじみの憂鬱

切なげな朝陽の目が、目を見張らないと分からないような小さな小さな星をとらえる。

朝陽はまるでその小さな星に囁きかけるように、切ない声で言った。


「僕、やっぱり彼女じゃなきゃ、ダメだな。

 たとえ好きな人がいても、彼氏がいても、それが友達だったとしても、僕はやっぱり、彼女のことが、好きだ」


さっきまでなかった風が吹き始めた。

その風は私の体や頬を冷たく切り付けるように流れていく。

それなのに、朝陽は顔色ひとつ変えずに、その風に吹かれている。


「どうしてかな、いつもならすぐに諦められるのに。

 凪咲の一声で、僕はいつだってその恋に線引きしてきたのに。

 だけど、今回は違うんだ。

 一目惚れだからかな。

 一瞬で「この子だ」って思ったからかな。

 こんなの、初めてだから。僕の人生にもこんな運命的な出会いがあるんだね。

 そんなの、これからの人生で、もうないかもしれないでしょ、こんな僕に。

 だから、諦めたくないのかも」


そう言って照れながら笑う。

これもまた、初めて見る朝陽の表情。

私の知らない朝陽が、溢れ出ている。

こんなに一緒にいるのに、私はまだ、朝陽のこと、何も知らない。


< 55 / 58 >

この作品をシェア

pagetop