ヨルガオ-午前0時の逃避行-

財布を取り出そうとして行き場の失った私の手は、店を出てから慌ててポシェットの中へ。


「由良くん。私、いくらだった?」


私が注文したのはパスタで、由良くんはオムライス。

確かパスタの方が少しだけ安かった気がするけど。


「いらない」

「え、ダメだよ。自分の分は自分で……」

「こういうときは素直に奢られろ」



“お金の貸し借りをしてはいけません”

私はまだそういう世界で生きている。


友達とは常に対等で、大人数の食事でも自分が食べた分は自分で払う。

それが当たり前。


たった一度奢っただけで上下関係がついてしまうような、ある意味そんな脆い世界でもあるから、1円単位で分ける労力すら惜しまない。


でも大人は違う。


それをまじまじと見せつけられた気分だった。


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