ヨルガオ-午前0時の逃避行-
小さな声は消えることなく由良くんへ届く。
「仮面夫婦ってなに?」
「表面上は仲良し夫婦を装っているけど、本当は全然仲良くない。家ではほとんど会話しないんです」
「へぇ」
「お父さんにもお母さんにも恋人がいて、お互い気づいているのに見て見ぬふり。今日はお母さんが彼氏を家に連れてきたから居づらくて……」
だから逃げた。
「その間、父親は何してんの?」
「お父さんはお父さんで、彼女のところにいるんじゃないですかね」
なんで話そうと思ったのかわからない。
口を開く前にちらり映った由良くんの横顔。
それがあまりに綺麗で、引き込まれそうになった。
話しても由良くんは嘲笑ったり同情したりしない。
ふとそう思った。
だから話したのかな。