ヨルガオ-午前0時の逃避行-
やっぱり風に乗っている間は嫌なことを忘れられる。
余計な考えをしなくて済む。
ライダーさんはみんなそうなのかな。
もしかしたら、由良くんも……。
やがて見慣れた景色に変わってゆく。
町の中は、信号や看板のネオンに彩られていて。
海が闇ならここは光。まばゆい光は絶対に呑み込もうとはしない。
コンビニからバイクで1、2分の距離。家が見えてきた。
「ここ?」
「うん」
閑静な住宅地の一画にある一戸建て。
特筆すべきところがない普通の家。
近所の人には「仲良し家族が暮らす理想の住まい」だと思われているみたいだけどね……。
ヘルメットを返して、お礼を言う。
「ありがとうございました」
「どういたしまして」
こんなに心のこもっていない「どういたしまして」を聞いたのは初めて。