ヨルガオ-午前0時の逃避行-
「みんなは、総長の女は大変だから作らないだけ、って思ってるみたいだけど……。そもそも恋したことないだろ?」
「……」
「好きな人がいるだけで世界がハッピーになるのに」
杏樹は大げさに両手を広げて語る。
この手の話が苦手なのは、杏樹の言う通り、恋をしたことがないから。
わかり合える気がしないから。
だからといって、自分が寂しい人間だとは思わない。
心が動かない、ただそれだけのこと。
「次来たときは連絡先交換するからな」
店を出て、杏樹が宣言する。
「ああ、そうしてくれ。そして、二度と俺に相談するな」
「ははっ。……さて、俺は久しぶりに海にでも行こうかな」
「俺は帰る」