ヨルガオ-午前0時の逃避行-
『由良……!杏樹が……っ』
澪からその電話が来たのは、もう陽も暮れた頃。
急いで病院に向かう。
「由良さん!」
「杏樹は⁉」
「……っ」
案内されたのは、無機質な部屋。
肌寒く、薄暗い。
音もなく匂いも感じない、異様な空間。
ぞくりとした感覚が全身を這ったが、次の瞬間には、俺は膝から崩れ落ちたくなった。
部屋の中心に置かれたベッドで横たわる、杏樹。
「杏樹……?」
名前を呼びながら、ゆっくり近づく。
「おい、杏樹……」
返ってくる声はない。
傷を作りながらも穏やかな顔は、眠っているとしか思えなかった。
「嘘だよな……?杏樹っ!」
だけど、起こそうと触れた杏樹の身体は、冷えきっていた。