ヨルガオ-午前0時の逃避行-
「帰っていたのか」
リビングのドアを開けると、お父さんがちらっとこっちを見て言った。
だけど、すぐにスマホに視線を落とす。
お母さんも私を見て、
「おかえり」と言うだけで、再びテレビに意識を戻す。
うちは、家族仲が悪いわけではない。
お父さんと私、お母さんと私の関係は至って良好。
会話をするし、連絡を取り合うこともある。
最悪なのは夫婦仲。
仲が悪いわけじゃない。
互いに興味がないのだ。
喧嘩や悪口よりも無関心がもっとも愚劣だ、と思うほどにうちの両親は他人を貫き通している。
だけど、ご近所さんには「仲のいい夫婦」で通っている。
外面だけはいいらしい。
どうしてそうまでして夫婦の形にこだわるのか。
厄介なことに、お父さんもお母さんもそれなりに格式のある家の子供だから、互いの家に“メンツ”を立ててしまう。
いわゆる世間体というやつ。