ヨルガオ-午前0時の逃避行-

一瞬、何が起きたのかわからなかった。


足音がしたと思ったら突然、由良くんに引っ張られて……。

気づけば、部屋の中──玄関に佇んでいる。


咄嗟に掴まれた手首には、離れたあとも熱が残る。


ほんとっ……、こんなことでいちいち。

揺さぶられる。


私の心はさっきからぎゅっと苦しい……。



「それで、なに?」

「あ、うん。これ……」


今度こそポケットから鍵を取り出した。


私はこれを、最後の砦のように思っていたのかな。

返した瞬間にすべてが終わるような……。


だから、手放す瞬間まで心を残している。


「返すのが遅くなってごめんなさい」

「……」


鍵を由良くんの手に落とした。


すべてが終わるのはそういう気がしているだけ。

本当に終わったわけじゃない。


心残りがあったとしても、決めたことに迷わない。


< 244 / 267 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop