ヨルガオ-午前0時の逃避行-
「俺の方こそありがとう」
凪いでいた由良くんの瞳が、徐々に波立つみたいに揺らぎ始める。
「光莉は助けてくれたって言うけど、救われてたのは俺の方だ」
「……」
「杏樹が死んでからずっと、生きてる気がしなかった。何もない、何も感じない。苦しいとか寂しいとか、そういう感情もない」
粛々と言葉を紡ぐ由良くん。
だけど声色は、撫でるようななだらかさを持っていた。
「でも、光莉に会ってから……楽しかった」
「……え?」
「光莉は、見てると心配になって目が離せない。冗談通じねぇし、なんでも素直に受けとめる。かと思えば、わかりにくい冗談を言うし……たまにむちゃくちゃなことも言う」
言葉を切って、表情を柔らかくした。
「そういう光莉に、俺は救われてた」