ヨルガオ-午前0時の逃避行-
視界が滲んで。
温かいものがひとつ、私の頬を伝う。
由良くん、今……楽しかったって言った?
私といて……。
「楽しかったの……?」
「うん」
「辛くなかったの……?」
「『杏樹のことを思い出したくない』『大切な人を作りたくない』『深入りしたくない』……そういうの全部取っ払って。俺も、光莉に会えてよかったと思ってる」
「……っ」
「悪かったな、酷いこと言って」
まるで大切なものを扱うような由良くんの片手が、私の頬に触れた。
どうしてそんな優しい言葉をかけてくれるの……?
私、今度こそ拒絶される覚悟で来たのに……。
目を細める由良くんをちゃんと視界に捉えている。
だけど、目に溜まる涙のせいで由良くんの輪郭を上手く捉えられない。
……だめ。おさえられない……。
俯いて目を閉じた瞬間、大粒のそれは零れ落ちた。