ヨルガオ-午前0時の逃避行-
「持ってるけど、持ってくるのは初めてだな」
答えながら由良くんは視線をスマホに戻した。
文字を打っているのか、画面に触れる指がせわしなく動いている。
「どういうこと?」
「ツーリングのときは必要ないから家に置いてくる」
「必要……ないの?」
「ないだろ」
そうかな?
……うーん、そうかもしれない。
ツーリングという名の旅。
何かを食べるわけでも遊ぶわけでもなければ、写真に残すようなイベントもない。
私がいなければきっと時間を気にすることもなかった。
この旅はある意味、現実逃避のようなもので。
もとめるのは安寧。
繋がりの代名詞“スマホ”は真っ先に遠ざけるものかもしれない。
「どうして今日は持ってきているの?」
それならば、だ。
煩わしささえ覚えるスマホを、今日に限って持ってきているのはどうして?
と疑問に思うのは、ごく自然の流れだった。