ヨルガオ-午前0時の逃避行-
「もうすぐ梅雨だね」
ぽつりと呟いた私の言葉に反応はない。続ける。
「雨が降ると、やっぱり走れないの?」
「走れなくはないけど……」
由良くんは言葉尻を濁した。
今この瞬間が、いかに奇跡のような時間か思い知らされる。
天気ひとつで安寧が左右されるほど脆い。
ずっと流れ続けてはいられない。
いつか桃が拾われるように、ふとした瞬間に転機を迎える。
それは、桃太郎にとっては始まりでも、私にとっては終わり。
波が寂しい音に変わった気がした。