ヨルガオ-午前0時の逃避行-

「もうすぐ梅雨だね」


ぽつりと呟いた私の言葉に反応はない。続ける。


「雨が降ると、やっぱり走れないの?」

「走れなくはないけど……」


由良くんは言葉尻を濁した。



今この瞬間が、いかに奇跡のような時間か思い知らされる。


天気ひとつで安寧が左右されるほど脆い。


ずっと流れ続けてはいられない。

いつか桃が拾われるように、ふとした瞬間に転機を迎える。


それは、桃太郎にとっては始まりでも、私にとっては終わり。


波が寂しい音に変わった気がした。



< 44 / 267 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop